想像以上のDVD

内容のみならず、売れ行きについても想像以上だった東京ドームLIVE収録のDVD。
一体何が起こったのかを各要素を踏まえ見ていくこととする。

[内容]
内容が優れていたのは間違いない。
また、ライブ自体が記念公演といった主旨もあったため、一般からの注目も集まりやすく、手に取りやすい要素にはなった。

[メディア影響]
公演と前後して、プロモーションを兼ねて広範囲の番組に出演してきた。
また、中の人への評価が高いこともあり、各種情報番組でも積極的に取り上げられた。

[NHKドキュメント]
おそらく、主要因の一つがこれだろう。
晦日の深夜(前夜)という状況もあり、比較的多くの人に見てもらうことができた。
のみならず、4ヶ月に及ぶ公演に向けた舞台裏を真剣に追う内容であり、公演自体のすごさだけでなく、3人やその周りのスタッフの意気込みを伝えるのに十分な内容であり、自然と発売されるDVDへの興味が湧くものであった。
ごまかしのきかない内容がNHKらしく、あの状況のMJと同じ局とは思えない熱の入り方だった。

[流通形態]
過去、youtubeを始めとするネット界隈から盛り上がりが起こったことも影響し、ファン層のネット利用率が異常に高い。
後述のポスターにしても、根本はここが原因で店頭売り上げ比率が他と比べてかなり低いことが想定される。
ネット直販モデルは当然のことながら、個人情報と関連付けられ、非常に確度の高い受発注が可能となるため、余剰在庫となるような発注をする必要がなく、余剰在庫が生まれにくい。変に人間の関与を行わないので「売れるかもしれない」ということにはならず、単純に事前受注数を元にした発注を行うだけとなる。
だが、店頭販売に関してはそうではない、基本式があるにせよ最終的に発注数を決めるのは人間である、しかもこれは店舗ごととなる。
そしてそのために必要な要素は事前の予約数である。
予約の数が多ければ多い程、また勢いが強ければ強い程、店頭で売れることを確信し、より多くの発注を掛けることができる。
想像以上の売り上げを図るためにはこの要素が欠かせない。店舗がその判断で在庫リスクを抱えてくれることにより、今まで手にしなかった層にまでアプローチできる機会が生まれる可能性が高まる。
amazonは決して(過去の)自分に興味のないものや触れたことのないものは勧めてくれないのだ。
もちろん、このやり方は現在では最適ではないのかもしれない、が、実質的にこのやり方でほとんどが回っている、その上に乗っかるのであれば、その仕組みに従わなければ予想以上の結果には結びつかない。

[予約特典]
発売1ヶ月前になって、「店頭予約だとポスターが付く」発表があった。
これは、今の瀕死の小売り業界の要請もあったのだろう、膨大な数の準備がなされたようだ。
結果として、ネットから店頭に流れる動きと、ネットに加えて店頭でも買う、という状況を作り出してしまった。
また、かなりの数が用意されたために、当日予約なしの状況でも特典が付く状態となり、最終的には複数枚所持者を増やしてしまった=一般向け購入可能枚数を減らしたと考えられる。
また、発表と同時にネットから店頭から流れた層の意見を聞く限りでは、どうやらこのタイミングで多くの店舗からのオーダー報告は終わっていたようだ。結果として単にポスター確保だけになってしまい、店頭に並ぶバックオーダーを増やすことにはつながらなかった。
レーベルの意図としては、おそらくそこまでの意図がなかったのだろう。過去の売り上げから想定値をたたき出し、それに基づく出荷準備を勧めていたし、ほぼその想定通りの事前オーダー数に収まっていたのだろう。あとはその販売をどこにやってもらうかのコントロールのつもりだったに違いない。

[再販制度]
オーダーの話と併せて、再販制度について考える必要がある。
DVD及びDVD付きCDは、この再販制度(同一商品同一価格販売)の対象外である。
これは、再販制度によって返品可能なシステムであったために、小売店側が過剰なオーダーを行い、売れなければ返品する=メーカーが抱える余剰在庫、ということをさせなくするためにメーカ(レーベル)側が要望し、法の適用外とさせた経緯がある。
そもそも再販制度自体が(当時)レコードの価格維持を図って利益を多くするためにメーカー側が進んで要望した制度であり(見返りとしてメーカーへ返品が可能)、この制度のおかげで小売店は多くの在庫を店頭に並べることができ、結果として爆発的なヒットを支えるものであった。
しかし、時代とともに傾向が多様化し爆発的ヒットが出ない状態になると、返品だけが膨れ上がり、これは制度のせいで安く売りさばくこともできず(実際は二次や中古に卸すことで新古品などとして捌いてはいたが)、廃棄せざるを得ない、メーカーにとっては非常にやっかいなものとなってきていた。
そこで、DVDを制度対象外として、売り切り制とした。
その結果、店舗は必要な分以上仕入れてしまうと店頭在庫となり、捌くにも大幅な値下げが必要となるため、売れる可能性のある最低限しかオーダーをしなくなる。
DVDには、その周辺制度上「予想外の大ヒット」は生まれないのである。

[レーベル]
そんな状況でも、ポスター作戦やドキュメント放送、各種メディア影響などにより、事前にかなりのオーダー数が出たことは想像できる。
が、次に出るのはレーベル側の体制である。
レーベルの役割は売れる予想を行い、その数を忠実にこなすことである、当然そこには過去の実績やパターンが反映されるし、それがレーベルの最も得意とするところである。
ただし、その過去の実績やパターンから外れるものについての予測はうまく機能しない。
さきほどの流通形態の話からも、実際の売り上げ規模からも、数字上は購買層は頭打ち、と見るのは間違っていない。
当然、数字だけではなく、メディアの影響・評判なども反映される要素であり、ここの考慮がなかった、というわけではない。
店頭側のオーダーが少なすぎたのか、というとそういうわけでもない。
にも関わらず、今回多くのニーズを満たすだけの供給を行えなかった。
まずは、上述のネット→店頭の予約振替への対応である。実質的に店頭からのオーダーが増えたはずなのだが、それに応えられていなかった。
これはレーベル規模の問題もあり、一度決まってしまった生産数を簡単には変更できないのだろう。
いわゆる4大メジャーと呼ばれるところは、そもそもの全体供給量が多いため、急な増産の可能性も高く、それが可能となるマージンをそれなりに確保している。しかし、そうではないレーベルについては規模が小さくなり、結果として確保可能なマージンも小さくなる。急なオーダーには対応できないのだ。
そして、もう一つの重大な要素が過去の失敗の実績である。
ポリリズム→GAMEと一気に評判の高まった中で次の一手として満を持して投入したlove the worldの完全なる供給過剰。
そして、これ以後もほとんど増えない出荷枚数=バックオーダー数。
世間の評判とは裏腹に売り上げにあまりつながらない実績を残し続けてきたために、評判の影響を小さく見ざるを得なかった可能性が高い。
これは誰のせいかといえば間違いなくユーザ側だ。
問題というよりは、ネットを好む層や携帯ダウンロードを主とする学生、そういう嗜好形態のユーザが主であるというところにマーケティング側が対応しきれていない、そしてこれはこのファン層に限ってのみ異常に比率が高い、他が参考にできないことが考えられる。

[初回版]
本来、初回盤というものは数を絞ってプレミア感を煽る目的と同時に販売単価を上げて利益を最大化する仕組みであるが、近年では再販制度回避策として用いられるのが主となり、そもそもCDではないDVD単体のパッケージではあまり必然性のないものである。
「通常盤」を出すことを義務づけられていないので、すべて同一パッケージでなんら問題ないはずなのだ。
それを今回あえて初回盤と区別したのは、内容の濃さからして「参加した人の記念となる」部分を重視したと考える。
「鳩」がそれを一番よく表しており、当日参加していない人間にはまったく意味不明であり、これに対して差額を払う価値はないと考えるだろう。それ以外の特典については、よりコア層に関しては興味を示すが、一般的にはやはりおまけには高い感覚だろう。
また、5万人収容のドーム公演であるから、このコア層の多くは当日参加したという前提に立つと、コア層=参加者だけに受けそうな特典、と考える、初回盤の価格6500円がドーム公演のチケットとまったく同額なこと、パス型ステッカーが封入されていることからも間違いない。
よって、それ以外の一般向けには、その分の差額を引いた通常盤を提供することがDVD購入への敷居を下げる、という意味では非常に効果があるだろう。

[地域性と店舗の流動性]
残念ながら、3人の活動は非常に地域的な偏りがある。
もちろん学生と並行して行っており、そう簡単に移動できない部分もあるが、元々の受け入れられてきた素地が偏っているため、普通の首都圏以外の地域の店舗にはあまり評価されているとは言えない。
結果として、地方でのファン層は比較的薄く、この層は手軽に買えるネット販売の利用比率がより高く、地域の店舗ではより売れ行きが薄いと考える。
となれば、当然初回盤についても日常的に余り、余裕を持って買えた、のが今までなのだろう。
これに対し、首都圏では店舗間競争が熾烈で、特典などで差を付ける文化となっている。
そのため、ユーザ側は浮動傾向が大きくなり、予約という行為をしなくなる。
ただし、こういう店舗は実質的な売れ行きを判断材料としているので、オーダー数は予約数にそれなりの比率をかけて算出されており、あまり影響は大きくない。
ただし、新規層が増えた場合については当然想定できず、ものの確保が困難になる。
ただ、新規層とは言え普段から別のアーティストの作品を購入している従来の音楽志向層は当然のように予約を行っている人も多い。
そこに確保された分だけ、普段から浮動傾向が高いユーザは今回まともにその影響を食ったのだろう。
ポスターの発表で山の様にキャンセルが出ていたのを見るだけでもそれがよくわかる。
また、最近の評判を着実に察知し、ネット販売の割安さを相まって転売を仕掛ける層がかなり多かった。
この影響も大きいといえるが、残念ながらこの転売しようとしている者達の方が、いくらかこの作品のすごさ・人気について十分に把握していたんだと言える。
予約せずに初回盤を買えなかった人々は、はっきりいって3人に対する評価が甘かったのだ、自業自得。

ただ、少なくとも我々は今回については何か大きな流れが動き始めたような気がしてならない。
ドームドキュメントの一般層のあまりの評判の高さと、その流れをそのまま受けての今回の販売の騒動。
いずれ振り返った時に、「チャンスを与えてくれた曲」のように、次のステップにつながる重要な節目となるかもしれない。

そして、今後の課題は間違いなく、ネットに依存していない層のファンをしっかりと確保すること、だろう。
流通大革命には、まだ少し時間がかかるはずだから。